薄暗い地下室、乱雑に敷かれた石畳の上。悪趣味な造形の拷問器具に囲まれた、肌も髪も白い青年。麻痺しているのか、ぎこちない動きで起き上がろうとしている。その肢体の上で、刃が二、三度閃いた。

「かっ……はあ゙ぁぁ……」

毒で緩んだ喉は上手く震えず、荒い息しか出てこない。切創は見事に太い血管を断ち切っていた。飛沫が白い肌を赤く染める。急速に意識が遠のいていく。

血を止めないと。

本能で思うやいなや、傷口に膜が張る。血と同じ色のそれは次第に厚みを増し、紅玉じみた見事な結晶に育った。
ローブを纏う痩身がにじり寄る。血に錆びた鉈を握る手は死体同然の蒼白だった。

「それが噂の特技ねぇ。悪趣味な金持ちが喜びそうだ」

悪意に濁った赤い瞳が、彼を見下ろす。

「君、死なないんだって?」

「ロボトミーって知ってるかい?」

不吉な猫撫で声が、耳に纏わりつく。

「旧史の精神療術でね。脳の悪い部分を破壊するんだそうだ。で、今回は」

眼前に、金属の針の先端が迫る。

「ひっ……」

「眼窩からこいつを刺す」

数多の死体の手が、身体を押さえつけた。身震いひとつもできないほど力強く。死体操作は、赤目の魔術師の得手とするところだった。

「くそっ。離せっ触るな!」

無理やり捲られた上瞼の粘膜に、冷たい金属を感じる。

「それ」

素っ気ない掛け声で、異物が侵入を始める。目が裏返る。痛みよりも不快感が強かった。ありえない場所に、ありえない感触。

「ゔぅう……うぅ……」

耐えるような呻きに、血の色の目が細められる。骨の裏を金属が這い進む。ゆっくりと、しかし確実に。

「あ゙、っ」

大きく跳ねかけた身体が、一層強く拘束される。柔い器官が、圧迫される感覚。

ブツン。

「い、あぁ」

決壊した。

溢れた血が、透明な液体と混じって涙さながらに流れ落ちる。

「あ、あ゙あぁっ」

針を動かす度に、悲痛な喘ぎが漏れる。
加虐者の顔は狂喜を湛え、慎重だった手つきは自制を失っていく。

「え゙っ、あぁ、い、い゙だい」

頭蓋の内側で暴れる針が、周りの器官も巻き込み掻き回す。人体の中枢を荒らされる気持ち悪さ。筋肉やら眼球やらが裂ける痛み。血肉を捏ね回すグロテスクな音。それらが死ねない彼の精神を苛む。

「あ゙、ひっ、やだっ、あ゙あぁあぁ……」

「まだ壊れないでくれよ、いい子だから」

不吉な台詞は届いたろうか。

唸声は止まず、冷たい石壁に反響していた。

「全身の血を抜いた。脳も削った。骨を砕いた。肉を裂いた。一般人を拐かして、彼の力で殺すように強いた。」

「それから拘束を解いてやった。これ程憎い相手なら、躊躇なく殺せるだろうと。」

「……そしたらさ、何て言ったと思う?」

「悪人でも殺すのは嫌だとかだろ」

「流石は相棒だね。彼、非暴力主義もいいとこだよ」

「バーカ。あいつも頭がイかれてるんだよ。不死者はみんなそうだ」
「ていうかおれの飯に手ェ出すなよ。不味くなるだろ」

「嫉妬かい」

「は????」